小さな物語

日常の中で、ふっと頭に浮かぶイメージや言葉を追いかけていく…、 そこから出来上がる小さな作品です。

2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

Appleと林檎

都会育ちだった女性が、大叔母の残した田舎家に引っ越してきた。そんな彼女のささやかな日常と、曖昧な意識の向こう側からやってくるイメージや言葉が導く、非日常の世界、不可解な世界の二重構造です。 「アップルと林檎」 No.1 彼女の小さな家の二階の北側…

麒獅々々 物語の入口

「ジェンとケイトと、ソフィーとマグノリアの物語」 qu-img.hatenablog.jp 「アップルと林檎」 qu-img.hatenablog.jp もうひとつのブログ qu-meg.hatenablog.com

No.6 散歩の途中で見つけたその店は

No.6 散歩の途中で見つけたその店は 散歩の途中で見つけたその店は、一坪にも満たない小さな店だった。そこで売られていたのは中身がたっぷり詰まったサンドイッチだ。それを作っているのは愛想が良く、少しふくよかなお腹をした初老の女将だった。女将はこ…

No.5 夜も更け、田舎の静けさは一層深まっていた

No.5 夜も更け、田舎の静けさは一層深まっていた 夜も更け、田舎の静けさは一層深まっていた。リビングのテーブルの真ん中に、高級コールガールのような、ツンっと澄ました顔をした黒い箱がひとつ置かれている。その箱に収まった魅惑的なチョコレートが「お…

No.4 染み一つない完璧さ、母がどんな人かと聞かれたら

No.4 染み一つない完璧さ、母がどんな人かと聞かれたら 染み一つない完璧さ、母がどんな人かと聞かれたらそう答えるだろう。母は几帳面な人だった。几帳面と言うより完璧主義者と言った方が正しいかもしれない。いやそれとも少し違う、完璧になりたかった人…

No.3 書斎に残された大叔母の大量の本を眺めている

No.3 書斎に残された大叔母の大量の本を眺めている 書斎に残された大叔母の大量の本を眺めている。この本を大叔母は全て読み終えたのだろうか。こんな田舎にこもり、静かに本と対話する日々を過ごしていたのだろうか。そう思うと本には大叔母の息吹が宿って…

No.2 村人はまだ彼女によそよそしく

No.2 村人はまだ彼女によそよそしく 村人はまだ彼女によそよそしく、彼女もまた村人によそよそしかった。その建物を見かけたのは村の食料品店へ買い物に出かけた日の帰り道だった。遠目に見たその建物はエキゾチックな雰囲気を持っていた。見たことのない不…

アップルと林檎-No.1 彼女の小さな家の二階の北側に

No.1 彼女の小さな家の二階の北側に 彼女の小さな家の二階の北側に、本棚で埋め尽くされた書斎がある。書斎の反対側の、南に面した寝室は日当たりも風通しも申し分なかった。二階は書斎と寝室と屋根裏の小部屋に通ずる階段があるだけだった。一階は広々とし…

ジェンとケイトの物語 no.8

大きな魚が小さな魚を食べ尽くした 大きな魚はさらに大きな魚に食べ尽くされた さらに大きな魚はさらにさらに大きな魚に食べ尽くされた 最後には巨大な魚がすべての魚を食べ尽くした 巨大な魚はもうなんにも食べるものがなくなると 自分自身を食べはじめた …

ジェンとケイトの物語 no.7

甘い香りが支配する公園の入口付近では、幸せそうな顔があちらこちらに見える。彼らは一様にクレープを頬張っている。 ジェンは言った。「あの人たち、本当に幸せそうね」ケイトがうなずく。 「本当に幸せな顔って、他人まで幸せにするから不思議」ケイトが…

ジェンとケイトの物語 no.6

「悪いわねケイト、付き合わせちゃって」ジェンとケイトは高級ブランドの店が建ち並ぶ通りの一角にある気取った店の片隅で気取った椅子に座り、漫然と店内を眺めている。 ジェンとケイトが店に入った時、店員たちは彼女らをお姫様のように歓待した。その派手…

ジェンとケイトの物語 no.5

その日は天気のはっきりしない日だった。ケイトは地下鉄のホームで電車を待っている。ケイトの前に7、8歳ぐらいの顔立ちの良い女の子がミッション系の制服を着て母の隣に行儀よく立っていた。隣に並ぶ母もまた顔立ちの良いすらっとした女性で、センスの良い…

ジェンとケイトの物語 no.4

それはすべてのものが深い闇に息を殺してうずくまる真夜中に起こった。“私とは何か、人類はどこから来てどこへ行くのだろうか”そんな疑問を持つことを自我体験というらしい。自我体験は経験する人と、一生涯経験しない人とがいるといわれる。ケイトが最初に…

ジェンとケイトの物語 no.3

「芸術家になってはいけない」ハッキリと誰かにそう言われたわけではなかった。しかし、ジェンの頭の中にはその言葉が呪文のようにこだましている。そのこだまを追っていくと遠い昔の記憶の中にある祖父の膝の上にたどり着く。祖父は既に他界している。彼は…

ジェンとケイトの物語 no.2

「ねえケイト、もし死ぬ場所が選べるとしたら、深海と宇宙とどっちがいい」ジェンがキャンパスの芝生の上で体を起こしながら言った。ケイトはジェンの隣で仰向けで寝そべり、大学の建物の先端にそびえ立つ時計台とその向こうの空を眺めていた。空にはどこか…