小さな物語

日常の中で、ふっと頭に浮かぶイメージや言葉を追いかけていく…、 そこから出来上がる小さな作品です。

2022-08-09から1日間の記事一覧

No.5 夜も更け、田舎の静けさは一層深まっていた

No.5 夜も更け、田舎の静けさは一層深まっていた 夜も更け、田舎の静けさは一層深まっていた。リビングのテーブルの真ん中に、高級コールガールのような、ツンっと澄ました顔をした黒い箱がひとつ置かれている。その箱に収まった魅惑的なチョコレートが「お…

No.4 染み一つない完璧さ、母がどんな人かと聞かれたら

No.4 染み一つない完璧さ、母がどんな人かと聞かれたら 染み一つない完璧さ、母がどんな人かと聞かれたらそう答えるだろう。母は几帳面な人だった。几帳面と言うより完璧主義者と言った方が正しいかもしれない。いやそれとも少し違う、完璧になりたかった人…

No.3 書斎に残された大叔母の大量の本を眺めている

No.3 書斎に残された大叔母の大量の本を眺めている 書斎に残された大叔母の大量の本を眺めている。この本を大叔母は全て読み終えたのだろうか。こんな田舎にこもり、静かに本と対話する日々を過ごしていたのだろうか。そう思うと本には大叔母の息吹が宿って…

No.2 村人はまだ彼女によそよそしく

No.2 村人はまだ彼女によそよそしく 村人はまだ彼女によそよそしく、彼女もまた村人によそよそしかった。その建物を見かけたのは村の食料品店へ買い物に出かけた日の帰り道だった。遠目に見たその建物はエキゾチックな雰囲気を持っていた。見たことのない不…

アップルと林檎-No.1 彼女の小さな家の二階の北側に

No.1 彼女の小さな家の二階の北側に 彼女の小さな家の二階の北側に、本棚で埋め尽くされた書斎がある。書斎の反対側の、南に面した寝室は日当たりも風通しも申し分なかった。二階は書斎と寝室と屋根裏の小部屋に通ずる階段があるだけだった。一階は広々とし…