小さな物語

日常の中で、ふっと頭に浮かぶイメージや言葉を追いかけていく…、 そこから出来上がる小さな作品です。

2022-08-05から1日間の記事一覧

ジェンとケイトの物語 no.8

大きな魚が小さな魚を食べ尽くした 大きな魚はさらに大きな魚に食べ尽くされた さらに大きな魚はさらにさらに大きな魚に食べ尽くされた 最後には巨大な魚がすべての魚を食べ尽くした 巨大な魚はもうなんにも食べるものがなくなると 自分自身を食べはじめた …

ジェンとケイトの物語 no.7

甘い香りが支配する公園の入口付近では、幸せそうな顔があちらこちらに見える。彼らは一様にクレープを頬張っている。 ジェンは言った。「あの人たち、本当に幸せそうね」ケイトがうなずく。 「本当に幸せな顔って、他人まで幸せにするから不思議」ケイトが…

ジェンとケイトの物語 no.6

「悪いわねケイト、付き合わせちゃって」ジェンとケイトは高級ブランドの店が建ち並ぶ通りの一角にある気取った店の片隅で気取った椅子に座り、漫然と店内を眺めている。 ジェンとケイトが店に入った時、店員たちは彼女らをお姫様のように歓待した。その派手…

ジェンとケイトの物語 no.5

その日は天気のはっきりしない日だった。ケイトは地下鉄のホームで電車を待っている。ケイトの前に7、8歳ぐらいの顔立ちの良い女の子がミッション系の制服を着て母の隣に行儀よく立っていた。隣に並ぶ母もまた顔立ちの良いすらっとした女性で、センスの良い…

ジェンとケイトの物語 no.4

それはすべてのものが深い闇に息を殺してうずくまる真夜中に起こった。“私とは何か、人類はどこから来てどこへ行くのだろうか”そんな疑問を持つことを自我体験というらしい。自我体験は経験する人と、一生涯経験しない人とがいるといわれる。ケイトが最初に…

ジェンとケイトの物語 no.3

「芸術家になってはいけない」ハッキリと誰かにそう言われたわけではなかった。しかし、ジェンの頭の中にはその言葉が呪文のようにこだましている。そのこだまを追っていくと遠い昔の記憶の中にある祖父の膝の上にたどり着く。祖父は既に他界している。彼は…

ジェンとケイトの物語 no.2

「ねえケイト、もし死ぬ場所が選べるとしたら、深海と宇宙とどっちがいい」ジェンがキャンパスの芝生の上で体を起こしながら言った。ケイトはジェンの隣で仰向けで寝そべり、大学の建物の先端にそびえ立つ時計台とその向こうの空を眺めていた。空にはどこか…