2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧
その家では何もかもが薄暗かった。人の胴回りもありそうな太さの梁が黒ずみとひび割れの痕をさらし、薄暗い部屋の天井を覆っている。梁の至る所には萎びた草や花が吊され、それらはいい香りのするものもあれば苦々しい香りや刺々しい香り、発酵臭のようなツ…
その小さな洞窟は断崖絶壁に鎮座するヘソのようだと思った。絶壁の中腹にくり抜かれた小さな穴は、人がひとり座るには十分な広さの空間があった。その洞窟でマグノリアは荒地を耕す農夫を眺めている。これがマグノリアの新しい日課だ。マグノリアの肩では鷹…
でっぷりとした腹の男が、左右に大きく身体を揺らしながら遠ざかっていく。男はどんなに断られても簡単にめげるような男ではなかった。マグノリアはテラスで香を焚き、夕暮れの風の中、籐の椅子に沈み込みながら男を見送っていた。 その男の心臓は誹謗中傷、…
彼女は断崖絶壁に立ち、荒れ狂う海に覆い被さる陰鬱な空の向こうを眺めている。かれこれ二時間になる。それが彼女の朝の日課だ。彼女は鷹族である、鷹の視力は人間の500倍。鷹族である彼女は見ることで世界を理解する。 そこでは、背の低い雑草たちがゴツ…
ジルと名付けた子犬のために、ソフィーは懐かしい町にやってきた。ソフィーがまだジルのように、この世に恐いものなど何もなかのような顔をして生きていた頃に住んでいた街だ。そこには子どもの頃のソフィーにとって、秘密基地のような特別な場所だった工房…
私たちはこの罪からいつ自由になれるのだろう。町外れの店先のテラスでニュースサイトを見るソフィーの目に、今日も紛争のニュースが矢のように飛び込んでくる。紛争は悪化するばかりで気が重くなる。ソフィーはサイトを閉じた。 テラスの最前線で身なりのい…
砂糖のような甘さを含んだ白いペンキで塗られた店からバターと砂糖の焦げるような香ばしい匂いが漂ってきた。ソフィーは歩きながらその幸せなそれでいて罪深そうな匂いを少しだけ楽しむと、そのまま店を通り過ぎた。白いペンキの店から少し行くと大きな扉が…
今日もまた、曖昧な夢の中で目覚めた。このところもやもやした思いだけが残る夢が続いている。ソフィーはしばらく天井を眺めていたが、意を決し、ベットからゆっくりと起き上がった。カーテンを開けると、外はまだ夜が明け切らない薄暗さを残している。寝起…