小さな物語

日常の中で、ふっと頭に浮かぶイメージや言葉を追いかけていく…、 そこから出来上がる小さな作品です。

2022-09-11から1日間の記事一覧

No.15 秋風の心地良い頃に彼はやって来た

No.15 秋風の心地良い頃に彼はやって来た 秋風の心地良い頃に彼はやって来た。彼は親しげな顔で、窓から半分だけ覗かせ玄関の戸を叩いた。彼女は彼の顔に見覚えがあった。彼は以前、空き家だったこの家を管理していた管理人だ。彼女が玄関の戸を開けると、彼…

No.14 その日は何故か朝早く目が覚めた

No.14 その日は何故か朝早く目が覚めた その日は何故か朝早く目が覚めた。どうした訳だかいつになく清々しい気分だ。その理由に心当たりが見つからない。それでも彼女はその気分に乗って、早朝の散歩に出かけることにした。ストールを羽織って玄関を出ると、…

No.13 南に面したテラスからの眺めは開けていた

No.13 南に面したテラスからの眺めは開けていた 南に面したテラスからの眺めは開けていた。そこは雑草が茂る空き地が広がっているだけだった。空は穏やかに晴れ、小鳥のさえずりが静かな一日のはじまりを告げている。テラスのテーブルには好物のフレンチトー…

No.12 彼女はいつものように、村の食料品店で

No.12 彼女はいつものように、村の食料品店で 彼女はいつものように、村の食料品店で一週間分の食料と地元新聞をひとつ買って店を出た。地元新聞では、ペットとして飼われていた迷子のカメレオンが無事見つかったというニュースが一面を飾っていた。泥まみれ…

No.11 田舎の夜道に靴音は響かなかった 

No.11 田舎の夜道に靴音は響かなかった 田舎の夜道に靴音は響かなかった。彼女は暗くなった外を眺めながらホットココアをすすっている。都会の夜では夜更まで靴音がよく響いていたものだ。特に急ぎ足でカッカッカッと尖った音を立てるヒールの音は遠くまでよ…

No.10 陽だまりの中、無心の目を輝かせた男の子たちが 

No.10 陽だまりの中、無心の目を輝かせた男の子たちが 陽だまりの中、無心の目を輝かせた男の子たちがジャングルジムを競うように登っている。精神の自由という翼が眩しく輝いている。ジャングルジムを登った先には何もない。何もない天辺に向かって登って…

No.9 道の向こうに小さな小屋ひとつ分もありそうな大きな岩が

No.9 道の向こうに小さな小屋ひとつ分もありそうな大きな岩が 道の向こうに、小さな小屋のひとつ分もありそうな大きな岩が見えてきた。それは大地にできた巨大なコブのような姿で、あるいは天から落ちて来た小さな惑星のような姿でそこにあった。周囲は何も…

No.8 彼女はベランダに出ると飛び切り大きな伸びをし

No.8 彼女はベランダに出ると飛び切り大きな伸びをし 彼女はベランダに出ると飛び切り大きな伸びをし、朝の新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んだ。体中が喜んでいると感じる。幸せな瞬間だ。空は快晴、朝の静けさの中で聞こえてくるのは鳥のさえずりと風の優…

No.7 彼は不格好に膨らんだ黒くて重そうな鞄を手に下げ

No.7 彼は不格好に膨らんだ黒くて重そうな鞄を手に下げ 彼は不格好に膨らんだ黒くて重そうな鞄を手に下げ、汗を拭きながら苦しそうに歩いている。セールスマンだろうか。あの鞄の中身は何なんだろう。彼女は何気なく想像してみた。まず軽い品では無い、かと…